1.05.2011

適正価格って

新年早々から大炎上し今なお鎮火していない某カフェのおせち騒動。





21,000円のおせちが10,500円という時点で普通は怪しいと思う。
多少纏めて仕入れられるからっていきなり食材が半額になる訳でなし、
バイトの時給を半額に出来る訳でなし。
売り上げの半分を中間のグルーポンに抜かれるのであれば尚更。
企業は儲ける為に商売をしているのであって、わざわざ損をする為にモノを作って売っている訳ではない。
それを考えれば、良くてももともと10,500円相当の品であったと見るのが妥当だろう。
そもそも過去におせち販売の実績がないのならば「通常値段」には根拠がない。嘘だ。

時計ではこの手の定価偽装というのは昔からあって、
過去に消滅した海外名門ブランドの名前だけ買い取った国内の企業がそれを隠して
「あの○○の腕時計定価98,000円が特価9,800円!」とか通販広告を打っているのをよく見る。※1
常識で考えれば98,000円の時計を9,800円で販売して利益が出る訳がない。
むべなるかな、ここの時計を「定価」で売っている店などどこにもなく、こんなものは初めから「せいぜい9,800円」が妥当なメイドインチャイナの安物なのだ(他メーカーの人気モデルを丸パクリしたデザインを見ればおよその察しはつくが)。
時計好きの間では「(笑)」つきでしか口の端に上がる事がないここの時計が友人の腕に光っているのを見た時は困ったね。ネタでしているのならばいいのだが、「一流品を格安で、いい買い物をした」と思っているのならばその気分をぶち壊す権利は自分にはない※2
こんなの「どう?」とか振られても何ともコメントしようがないじゃないか。
「あー…うん、ピカピカしてるね」とか間の抜けた感想をぶつぶつと呟くのが精一杯で、これならなあからさまな贋物の方がまだいい。

定価偽装が罪深いのは、真っ当な値段をつけている他の製造者にまで影響を及ぼしてしまうところ。
食べ物でこれをやられると真っ当な商売をしている業者は困るだろう。悪貨が良貨を駆逐し、気がつけば市場には嘘つきしか残らなくなってしまう事になりかねない。そうなる前に大々的に炎上したのは消費者の為には寧ろ良かったのかもしれない。

しかしそろそろ買う側も「適正値段」というものを考えた方がいいのではないかなあ。
とんでもないおせちが届いた方は誠にお気の毒だが、これが単純に安さに惹かれて飛びついた結果であれば些か軽率であったとの謗りを免れるものでもない。
妥当な値段を払ってまともなおせちを受け取った人も沢山いるのだから。

これまでの人生で知り得た真実の一つに
「高いことには必ずしも理由があるわけではないが、安いことには必ず理由がある」
というのがあって、
一連の家づくりの経験ではこれをつくづく思い知った。
安い土地には必ず安いなりの欠点があって、激安の建売物件もよくよく調べてみればやはりそれなりの理由(いい意味でなく)があるものだ。
こと不動産においては掘り出し物というのはまず存在しない。

さらに言えば、延べ15坪しかないこの小さな家も決して「ローコスト」ではない。
絶対的な大きさが小さいので総コストだけで見れば安く見えるが、坪単価で見れば率直に言って建売とは比較にならない※3
しかしそれはその内訳を知れば当然の話なのであって、比較する方が間違っているのだ。勿論出来る範囲でのコストダウンはお願いしたが、その引き合いに建売の定価を持ち出すほどの野暮は言わないし、言えない。
注文住宅とはそういうもの。しかし施主がみな建売の値段を持ち出して「これで作れ、作れなければ契約しない」と言い出したらどうなるか。まともな工務店は軒並み潰れてしまうだろう。
しかし安さにしか価値を認めない昨今の風潮がさらに蔓延すれば、これが現実のものとならない保証はどこにもない。

いいものはきちんと対価を払って手に入れましょう。


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※1 営業妨害になってはいけないので名は伏せるが…あまりに有名なので伏せるまでもないかな。
※2 この手のモノは直接身に着けるものだけに、一度嫌悪感が湧くともう見たくもなくなるものなのだ。これ一本しか腕時計がないのならばまた買い直すしかないし、さすがに友人をそんな気分にさせて喜ぶほど意地悪ではない。
※3 ライトウェイトハウスはローコストを追求した家ではない。結果としてローコストなのはただ単に小さいからで、底流をなす考えには禅寺とか茶室に近いものがある。

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