12.16.2015

ファッショナブルでない家

S氏が螺旋階段を用いない主な理由はその低い実用性。
その通り、螺旋階段はあまり実用的でない。少なくとも昨今「省スペース」を名目に小さな家に導入されるコンパクトな螺旋階段はソファも大型洗濯機も通せないし、内径の小ささがもたらす強引な回転運動と中心に向かって急激に狭くなる踏み板は住人にとっても決して快適なものではない。逆にそのような問題をクリアした螺旋階段は普通の直通階段より大きなスペースを必要とするし、であれば直通階段の方が余程使い勝手が良い。
大きなビル建築でも非常階段以外にはあまり採用されない螺旋階段をスペースに余裕があるわけでもない住宅にわざわざ採用する理由は何となく洒落て見えるからか、このごろ流行りの女の子ディテールは施主の受けがいいからか。実際、どれだけ床面積が小さかろうと間口の幅が狭かろうと何とかの一つ覚えのように螺旋階段を放り込む建築家も実際にいたりする。

自分の意見を言えば、長期に渡る耐久諸費材である家でファッション=流行を意識するのはあまり好ましくない。なぜなら流行はほどなく廃れるもので、廃れた流行ほど古臭く見えるものはないからだ※1。流行が流行でなくスタンダードとして残る可能性も勿論あるが、現在の流行がそうなるかどうかは誰にも分からない。その点で時の洗礼を経ていない流行に安易に手を出すのはリスキーだ。
我が家を例に挙げれば、施主が今時の流行の実用性の欠如を気に入らない事もあって全くファッショナブルではない。すなわちスキップフロアも螺旋階段もなく外壁はワントーンで、窓にはいちいち庇をつけ壁と床の間にはきちんと幅木が走っている(これをひっくり返すと今時の流行のディテールが一揃い)。サイズを除けば普通すぎるくらい普通でこれみよがしに洒落ている要素は一切ないのだが、余計な色がついた家は欲しくなかったので(色は自分がつけるのだ)それでよかった。というか、それ「が」よかった。実際に上記のディテールが提案されたら悉く却下しただろうなあ


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※1 80年代あたりに当時の流行のスタイルで作られたビルの、今目線で見た時のダサさったらない。新橋駅近辺を少し歩けば幾らでも目に入るその手のビルはスタンダードなスタイルのビルより(築年は新しくても)遥かに古臭く見えてしまう

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