日本のパスポートが高値で取引されている(らしい)のは、それさえあれば世界中の大体の国へはビザなしで渡航できてしまうから。使い勝手が極めていいのだ。当たり前のようで当たり前でないこの事実は、日本という国の国力と長い間かけて培った国際的な信義の賜物。日本人ならそう悪いことはしないだろうし入れてやってもいいかという信用の表れだ。先人に感謝。
ちなみに某国のパスポートを持ってビザなしで渡航できる先進国は、かの国が世界第二位の経済大国となった今でも殆どない。どういうことなんでしょうねえ(すっとぼけ)
その日本もロシアから見れば敵の大将の子分であり、太平洋に蓋をしている目の上のたんこぶ。当然ジャパンパスポートの威光は通用せず、かの国に渡るには今でもビザの取得が必要。
それも結構厳しく、個人で取得するには滞在予定ホテルの発行した予約バウチャーの提出が必須。ある程度のホテルであればバウチャーを発行してくれるのは後程分かったことだが、ビザ発行にもそれなりの日数が必要であったこともあり、今回は素直に金で解決。
すなわち、ビザ取得代行業者に依頼する。
ロシアビザセンターにネットで申し込んでからパスポートと写真一葉を郵送。取得を急ぐほど費用は高くなるが、自分は「二週間待ち・期間一か月・再入国可能」ビザを選択し8,000円を指定口座に振り込む。
待つこと二週間、ビザが印刷されたパスポートが無事返送されてきた。
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ビザ取得といえば印象に残るのがシリアのビザを取った時のこと。
もちろん今の国家崩壊したシリアではなく、今は亡きアサド大統領独裁のもと、国民は言論の自由はなくとも平和と秩序と繁栄を享受していた社会主義国の優等生であった頃の話。※1
シリア大使館は赤坂の奥の閑静な高級住宅街にあった。蝉しぐれだけが響き渡る夏の午後、汗を拭きながら地図を片手に坂道を上りたどり着いたその大使館は、小国の常で大使館とはいっても個人の豪邸といった趣。その門をくぐり玄関のチャイムを押して来訪の用件を告げると、ややあってリモートで玄関ドアが解錠された。
中に入り、インターホンで指示された通り薄暗い廊下の突き当りまで足を運ぶと木製のドアをノックする。
ドアを開けると十五畳ばかりの部屋。正面奥にはマホガニーと思しき大きな木製の机があり、その向こうで眼鏡をかけたグレーのスーツ姿の中年と呼ぶには少し若いくらいの女性が足を組み一人で書類を書いている。見たところ日本人のようだが、いかにもキャリアウーマン然としたてきぱきとした物腰はアナ・ウィンターを彷彿させる。
改めてビザ申請の用件を告げ、毛足の長い絨毯の上を歩いて机の前に進むと持参した必要書類を手渡す。
おおまかな日程表と職場上司の人物推薦状、それとシリア出国後にイスラエルには入国しないという誓約書。
書類は職場のPCで仕事の合間に作成しプリントアウトしたもので、推薦状は自分で書いて仲のいい先輩社員にサインだけしてもらったものだ。フォームは全て英語が指定されている。
一連の書類にさっと目を通したアナは言った。
「大体いいんですけどこれ、この誓約書は少し問題があるので書き直してもう一度提出してください」
「何かおかしいですか」
「ここのところ、State of Israelと書いてありますね」
「はい」
「あそこは国ではありません。認めてませんから。Israelとだけ書いてください」
淡々とした声とこちらを一瞥した目には何の感情も認めることは出来なかった。
魚は空を飛べませんから。まるでそう言うが如く、ごく自然で当たり前のものといった口ぶりでアナはそう言った。
ああ、彼らにとってイスラエルは今でも仇なんだ。イスラエル人は仇敵なんだ。
そういえばビザ発行条件の一つに「イスラエルの入国履歴がないこと」があったことを思い出し、その憎しみのない淡々とした口調に逆に日本人には想像もつかないアラブ問題の根の深さを垣間見た気がしたものだ。
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※1 ろくでなしのイスイス団が支配する世界一危険な魔境シリアとなり果てた今となっては信じられないことかもしれないがシリア人は本当に旅人に親切で善良で、これまで訪れた28か国地域の中でも人間の印象はダントツの一番。ロシア?うーん最下位争いかな笑
シリア大使館の様子、映画みたいに目に浮かびます!
返信削除アナウィンター(笑) 怖そう。。。
外国の大使館に市井の一個人が足を踏み入れる機会はあまりないことなので、時間があればぜひ一度自力でのビザ取得(それも直接)をトライしてみることをお勧めします。日本人がビザを必要とするのはロシア中国を除けば小国ばかりなのでなかなか面白い体験ができると思いますよ!
削除そうゆうビザが必要な国に旅行するのは面白いかもしれないですね。
返信削除シリア大使館のを読んでると、既に異国への旅行が始まってる感じです(^^)