カー用品店の陳列棚には、革シート用の多種多様な栄養クリーム・保護クリームやらクリーナーやらが並べられている。
クルマ好きの中にはこれらをあれこれ購入してはせっせと愛車の革シートに擦り込んだりしている人もいるのだが、実はこういった革シートケアは全く効果がない。
自動車の室内は極めて過酷な環境だ。駐車場に停めた自動車の室内は、冬は寒冷地であればマイナス10℃を下回り、真夏ともなれば60℃にも達する。青空駐車であれば強烈な紫外線にも容赦なく晒されるし、澱んだ空気は常に埃っぽい。
本来デリケートな皮革が、こんな過酷な環境に耐えられる訳がない。※1
表面にぶ厚く樹脂コートを施されて革の持つ風合いや通気性を失い、それと引き換えに凍てつく寒さや灼熱の真夏の太陽の下で10年放ったらかされても耐えられるだけの耐久性を手に入れる。
これが現代の自動車の「本革シート」に他ならない。※2
毛穴も全て樹脂で塗り込められていれば「革栄養クリーム」などいくら塗り込んだところで決して浸透していくことはないし、それどころか却って余計な汚れをよんでカビの原因となりかねない。
自動車の革シートのお手入れなど、絞った濡れ雑巾で拭けばそれで十分なのだ。
しかし、そうなると果たしてそれは革シートと呼べるのだろうかという疑問が生ずる。
それは実質的にビニールシートと同じではないのかと。
傷つかず汚れもつかず、油性マジックで落書きしても簡単に落とせるというガラス素材の超強力なフロアコーティングの広告を目にした時に抱いた感想もそれに似たものがある。
薬品にも溶剤にも耐え、手入れ無用でいつまでもピカピカの新品の美しさを保つフローリング。
大いに結構、だがそれは果たして「木の床」と呼べるのだろうか?
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※1 グッチのレザーコートを一年間窓際に吊るしておいたらどうなるか、お金持ちの人は試してみるといいだろう。空調の効いた室内であっても、紫外線だけでも相当悲惨な事になる筈だ。
※2 本当の「本革シート」に座って運転したかったらロールスやベントレー、オールドジャガーなどを購入すれば上質なコノリーレザーの風合いを堪能できるだろう。その代わり青空駐車などした日にはものの一年でひび割れだらけとなってしまうこと請け合い。勿論ジーンズなどもっての外でございます。
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