5.28.2017

葉山の家

GWが明けた次の週末にS氏がリノベーションを手掛けた「葉山の家」の見学会が開催された、本来の見込み客ではない自分もついでにご招待をいただいたので逗子まで行ってきた。

毎度毎度思うことだが、誰もがセキュリティやプライバシーをかつてないほど意識しているこのご時世に完成直後ならともかく実際に住んでいる家を公開する(させる)のはなかなかすごいことで、その証拠に他の建築事務所でこういった事例はまず見かけない※1。施主と建築士の信頼関係なくしてはまず望めない催しだし、関係が良好であったとしても工事の切れ目が縁の切れ目というドライな顧客ならやはり承知はすまい。ビジネスライクとは程遠いS氏には似たような雰囲気の(いい意味で)ゆるい施主が集まっているのも面白いところで、他の商売と同じくベンダー/サプライヤーとクライアントが似た者同士となる傾向があるのであればやはり気取った建築士には気取った施主が、ドライな建築士にはドライな施主が集まるのだろうか。検証の為にS氏には一度HPをイメチェンしてブラックバックにやたら小さな白抜きフォント、作例は説明ゼロのフラッシュのみとしてプロフィール画像をMr.マリックのような恰好で光量抑え目で顔半分影になった斜めショットに差し替えてみた上でどういう施主が集まるか確認してみていただきたい。

それで逗子。人生二度目の逗子。電車では初めての逗子。
JR逗子駅前のバスロータリーからS氏に言われた通り3番のバスに乗車したらさんざん回り道した挙句逗子駅前に戻ってきてしまい、降りしきる雨の中を大遅刻でやっと施主Aさん宅に到着。この時点で自宅を出てから3時間余が経過。うむこれはまずい。
Aさんは鷹揚にも笑顔で出迎えてくださったものの初対面での失態に恐縮することしきり。
恐縮しながら靴を脱ぎ、
恐縮しながらリビングに通され、
恐縮しながらビールと空揚げ※2をいただき、
恐縮しながらはいお邪魔しました。

「家を見なくていいんですか(翻訳:あんた何しに来たの)」
とのS氏のナイス突っ込みに我に帰り、恐縮しながらお二階を拝見。
S氏の説明にもある通り、この家においては「小さな部屋の壁をとっぱらって大空間を作り出す」リノベーションの定番は適用しておらずむしろその逆、もとは大空間モノスペースであったところを細かく仕切り、年頃の兄弟のために二つ個室と収納を設えてやったというのが主な内容。
家族が色々ならリノベーションも色々。Aさん宅で求められていたのは広い空間よりも独立心が芽生え始めた男の子のためのパーソナルスペースと、家族一人ひとりに十分に用意される収納スペース。この一家にとっては今やリノベーションの鉄板となった「リノベーション≒広々とした空間を作り出すこと」の公式は当てはまらないのだ。
これはこれでもちろん正解、子供も自我が確立する思春期ともなれば色々と親に知られたくない秘密も出来てくるものなので、その数年間だけでもいいから(またどんなに狭くてもいいから)専用のスペースを与えてやるべきだと思う。特に男子はつるんとした顔にニキビやらヒゲやら出てきてごつごつとみるみるうちに男臭くなりいつの間にやら喉仏なんぞ出てきて声が低くなるのと合わせるようにやたらとプライバシー意識が強くなって不用意に留守中に部屋に入ろうものなら激高して何勝手に入ってんだババア〇すぞなんて聞いたこともないような乱暴な言葉で罵倒された母親が仰天して一体あの子はどうしてしまったんでしょうなんて帰宅した夫に相談したりするところまでセットではいそれは男子がいる家庭でごく普通に繰り広げられている光景なので心配いりません。

男子二人に新たに割り当てられた部屋は三畳程度と狭いながらも互いの凹凸が組み合わさる巧みな間取りで、狭さもかえって秘密基地風な趣を醸し出していて好ましい。
(個人的には子供に与えるスペースは勉強部屋としての機能性があればそれで良く、広々と豪華で快適な空間である必要はさらさらないと思う。あまりに快適な環境は子供の独立心を損なってしまいかねないし、広々としたスペースが欲しければさっさと自立して家を出て好きな部屋に住めばいいのだ。その方が健全)
この家でもS氏的定番である厚さ3cm幅20cmの極厚の杉板と室内窓、明り取りを兼ねた格子の足場はしっかりとその存在感を発揮。
アクセントとしてだけでなく換気窓としての実用性も高い室内窓は子供にとってはよき遊具にもなる(実家にこれがあったら絶対にくぐって遊んでいただろう)万能の窓で、格子足場は太い材と細い材を組み合わせて変化を出しているのが新しい試み。

玄関上部に位置する明かり取り床。太い細い太い細い太い細い太い細い

幼い頃の自分ならくぐり抜けて遊ぶであろう小窓

前述のとおり都心から相当の距離はあるものの逗子は始発駅なので朝は座り通勤も可。湘南に共通する独特のゆるい空気※3もいいし、海も山も近く風向明媚。どうせ郊外に住むのであれば思い切ってこの辺りを生活のベースにするのも大いにあり。少なくとも住みたい街ランキング上位常連の鎌倉よりは遥かに正解。※4

__________
※1 どっかのハウスメーカーで完成後の公開を条件にした一定額の値引き制度を設けているところがあるらしい
※2 唐揚げと書くのは間違い。衣をつけないで揚げる=空揚げが由来であって中国とは何の関係もなし
※3 街の空気は住人にも確実に影響を与える。ゆったりとした空気はゆったりとした人を育てるのだろう。Aさんを見ればわかる
※4 理由は行けば分かるさアリガトー!。一言でいえば、観光地になんか住むもんじゃないよ

5.06.2017

おろしや国一週間(8)12月13日 ペトロザボーツクその1 Wo, Wo is stupid

モスクワからの夜行列車は時刻通りにカレリア共和国の首都ペトロザボーツクに到着。
列車から降りるなり摂氏マイナス18度の外気で手荒い歓迎を受ける。

低温下ではバッテリ消耗が激しい。下車前にiPhoneを充電


出迎えの子供たち

星をいただく尖塔がペトロザボーツク駅のシンボル


この街を訪れたのはいうまでもなく世界遺産の木造正教会が建つオネガ湖のキジ島へのフェリーに乗るためだが、駅を出てまず向かったのはフェリー乗り場でなくその近くにあるカレリアホテルというリゾートホテル。このホテルでフェリーチケットの予約を受け付けていると聞き、日本を発つ前に予めチケットの手配をメールで依頼しておいたのだ。
朝9時にペトロザヴォーツク着、11時発のフェリーに乗りキジ島に渡り、夕方のフェリーで再び帰って来る。そのままこの街で時間をつぶし、夜9時頃の列車に乗りサンクトペテルブルクに向かう。うむ完璧なプランだ。
もっとも二回送信しても返信がないのが気になるといえば気になるが大したことはあるまい。これもロシアらしいルーズさだろう。

カレリアホテルまでは駅から約5㎞、フェリーが出るまで時間は十分あるので普段であればブラブラ歩いていくところだが、とにかく半端でなく寒いので駅前からタクシーで直行。
さすがにリゾートホテルだけあって流暢な英語を話す受付の女性従業員二人に向かってここまで来た用向き、すなわちメールで依頼しておいたフェリーチケットを受け取りたい旨を伝えるが、二人とも呆気にとられた表情のまま固まって返事がない。通じなかったかと思いもう一度繰り返すと、顔を見合わせながら困った顔で漸く口を開いた。

「フェリーはクローズしています。だって…湖が凍ってるでしょう」







あっ。





全く信じられないことだが、ことこの瞬間に至るまで湖が凍り付いていることに全く思いが寄らなかったのはどうかしているとしかいいようがない。完璧なプランどころか完璧な間抜けである。
今度はこちらが言葉を失って立ち尽くしていると、もう一人の女性が続ける。
「メールの返事はありましたか?なかったでしょう。冬は運行してませんから」
あーそうかいそうかい確かに返事はなかったよしかし君ねェやってないならやってないと返事くらいくれてもいいじゃないかねェとブツブツ独り言つも全ては後の祭り。彼らにしてみれば冬になればオネガ湖は凍るのは当たり前、そうコーラを飲めばゲップが出るっていうくらい確実(Ⓒ荒木飛呂彦)なことであって、それに思い至らないこちらの方が非常識なのだ。

受付嬢は気の毒がって親切にも電話で確認してくれたものの、結果は彼女の言葉が正しいことが裏付けられただけ。
かくなる上は仕方ない。とりあえず今晩この街を発つまでスーツケースを預かってくれないかと頼み、身軽になるとホテルを出て街へ向かって歩き出す。とにかく夜まで時間をつぶさなくては。

カレリアホテルはオネガ湖の目の前



5.04.2017

トグルスイッチをお手軽に

我が家の壁の電気スイッチを全てゾルボンヌ印トグルスイッチに交換したのは4年前の夏の日のこと。品質には何の問題もなく、パチンパチンという小気味いい感触は取り付けた日から何ら変わることはない。メカニカルキーボードや手巻き腕時計やマニュアルトランスミッションが好きという感触フェチの気がある方には自信をもってお勧めできる一品。
販売代理店のR不動産toolboxでは出張工事の手配なんかも請け負っているのだけれど、そこまで本格的にではなくてとりあえずどんなものか試してみたいとか、賃貸なのでそもそも工事が無理とかいう人にお勧めなのが最近Pinterestで見つけたこれ


一見したところは本格的なトグルスイッチ…


実はスイッチプレートを外して代わりに取り付けるだけのお手軽施工。

モナカモナカ


元のスイッチはそのままで、プレートの代わりに取り付けた箱のトグルスイッチにつながった内側の棒で間接的にスイッチを操作するというナイスアイデア。これなら電気工事士を呼ぶ必要もなく自分で工事できるし、いつでも元の状態に復旧できる。
いいねこういうの。ただオリジナルのスイッチを生かすためにトグルスイッチは当然上下でなく左右に動かすことになるのがやや不自然であるのと、構造から推測するにスイッチの感触もパチンパチンというよりはポコンポコンとしたややソリッド感に欠けるものであるかもしれない。そこはそれ、お手軽施工が本格施工に敵う筈はない※1ので割り切るしかないが、でもこういうアイデアは好きだね


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※1 「敷くだけフローリング」が張ったフローリングには決して及ばない(双方を施工した経験から断言できる)のと同様。