家と物の関係について
S氏がいい事を書いている。
人は何も物を持たずに家だけで生活する事は出来ない。
言い換えれば、人は家に囲まれる前に物に囲まれて暮らしている。
好きな物で囲まれた心地良い空間づくり、家づくりはその延長線上にある。
少なくとも、自分の場合はそうだった。
インテリアのイの字も知らず、好き嫌いどころか興味すらなかった二十代の頃。部屋の中はただ安いというだけの理由で選んだ間に合わせの物で溢れ、間に合わせの物に囲まれた間に合わせの暮らしの中では将来どういう家に住みたいかなど全くイメージ出来ず、いつかその辺の中古マンションでも買えれば十分だろ、程度にしか考えていなかった。
(もしその頃に何かの拍子で纏まった金を手にしていたら、きっと安直にその考えを実行に移していたに違いない。良かった貧乏で)
それがいつから今のようなスタイル(好きなものしか身の回りに置きたくない)に180度転向したのか記憶が定かでないが、間に合わせで適当に揃えた物を一つずつ好きな物に置き換えていく作業を続ける内に、それを容れる入れ物自体がどうにも気に入らなくなってくる。そもそも自分が暮らすこの部屋が「適当に選んだ間に合わせ」に他ならないという事に気づいたのが家づくりを意識した瞬間。
そしてどういう家が欲しいのか把握するまで更に数年を要し、紆余曲折を経て漸く機が熟したのが五年前…と考えると、まだ若いのに回り道せずに自分のスタイルを確立し、剰え家まで建ててしまう人は凄いなとつくづく思う(S氏の顧客にも何人かいらっしゃるが)。
それを早熟と言うならば、自分はあまりにも晩稲という他はない。しかしその時間はあくまで人それぞれ、自分の木になる実が熟するまでにはこれだけの時間が必要だったのだろうから仕方ない。熟する前に摘み取っても堅くて酸っぱくて食べられたもんじゃなかっただろうし。